当時、私がまだ自分が産まれた町で両親と暮らしていた。
「まさかね。ジョバンニが倒れているとは思わなかったよ」
「…………」
この黒猫との出会いが、これからの私の人生を変えることになるとは思わなかった。
そして、そんなある日。私は彼と出会った。
「はぁ……」
今日も朝から雨。これじゃあ外で遊べない。
窓の外からぼんやりと外を見る。
雨が窓ガラスを叩いているから、外の風景も満足に見られない。
「……つまんない」
恨みがましく滴る雨の雫を見るけど、どうにもならない。
正直、雨は好きじゃない。飴は好きだけど。
私はどちらかと言うと晴れが好き。晴れれば、外で遊べるし、お昼寝もできる。
そりゃ、お昼寝は家の中でもできるけど、外で寝る方が断然気持ちよく寝れる。
ポカポカしてて、外の空気が気持ちいいし……
っと、そんなこと考えていたら、ウトウトしちゃった。
「このままこうしていても何だしなぁ……」
よし。雨だけど、お散歩に行こう。
このまま閉じこもっているのは退屈だし、息苦しい。
そう決めて部屋から出た。そして、そこで気がついた。
「雨の日に外出るんだから……」
その場で、長くなった髪を一つにまとめる。
「あ」
ポケットに手を入れたら髪留めが無い。いつもつけないからなぁ
仕方ないので、手を離して机に向かう。
確か机の引き出しの中に……あった。
色々な色のゴムがあるし、リボンもある。
昔、お母さんが買ってくれたものだ。でも、私はあまりリボンが好きじゃない。
リボンって言うと、上品なお嬢様や大人しい子がつけるイメージがなんかある。だから、辺りを走り回ったり、何か細長いものをくわえるクセのある私には似合わない。
誰かがそう言った訳じゃないけど、私はそう思っちゃう。
だから私はゴム輪を使う。
ゴムの色は色々とある。気分次第で変える。
「今日は……」
私の髪は黄色系。あまり明るいとゴムが目立たないし、不自然。だから、比較的濃い色のを使う。
だからあるのは、青、紫、赤、黒。あ、あと白もある。
今日は気分的に黒が良い。だから、黒色のゴムを手にした。
もう一度髪を一つにまとめて、ゴムを通す。
「んっと…」
通してから、一応鏡で確認する。……ん。ずれてない。
そうして、私は改めて部屋を出た。
階段を下りきったところで、一度立ち止まる。
居間の方をそぉっと見る。お父さんとお母さんが向かい合って座っていた。
「…………」
4ヶ月前から、二人の仲は悪くなってきている。最近では毎晩の如く、口喧嘩が絶えない。
それ以外で二人がいるときは、今みたいにただ黙って向かい合っている。静かに話し合うときもある。でも、夜になれば決まって口論
最初は怖かったけど、悲しいかな。今じゃ慣れて、何にも思わない。
でも、二人に顔合わせるのはイヤだからそのままこっそりと家を出る。
そぉっとドアを開けて、外に出る。そして、同じようにそぉっとドアを閉める。
「ふう……」
やっと一息。
外は家の中と違って冷える。だけど、この時期のこの冷え方が気持ち良くて私は好き。
私は傘を開いて、散歩に出かけた。
「動物が行き倒れているなんてそんな珍しくないんじゃないの?」
「ううん。珍しかったよ。私の街の動物は飼われているのしかいないし。野良とか野性のは存在しなかったよ」
「…う〜ん。なんかそれって怖いなぁ」
「噂では、迷い込んだ野性や野良は、駆除されるか食べられちゃうんだって」
「…カムパネルラに見つけてもらえて本当によかったと改めて思うよ……」
ちょっとした好奇心から、普段は入らないような路地裏に入ってみた。
ゴメンナサイ。嘘です。普段から入ります。
言い方変えます。普段普通の人が入らない路地裏にいつものように入った。
路地裏は、まるで違う世界のようで、私は好き。別の世界に行けそうだもん。普段見られないものが見れたりできるし。全くのアナザーワールド!
雨の日は普段の世界の見方も変える。それを期待して、路地裏に入ったの。そうしたら、神様は私の期待に答えてくれた。
私の目の前に黒い猫が倒れている。
最初は死んでいるのかと思ったけど、息をしてお腹が動いているのを見ると、生きていることが分かった。
この街では、何故か野生の動物と野良の動物は存在しない。というより、迷い込んだら大人たちに駆除されちゃう。だから、この町に住む動物は、皆誰かに飼われている。
そして、動物を飼う家は少なく、すぐに覚えられる。だからこそ、この黒猫に少し興味を持った。
この黒猫は私は今まで見たことが無かった。つまり、この街の動物ではなく、外からやってきた猫。
「………」
その存在に私は惹かれた。
外からの動物は初めて。きっと色々なものを見てきたんだろうな。そして、これからも見ていくんだろう。だけど残念なことは、この街に入って、ここで倒れてしまったこと。もし誰かに見つかれば、間違いなくこの子は殺されちゃうだろうな。
きっとこの黒猫は、ずっと旅をしていたに違いない。絶対そうだ。でなかったら、この街に入るわけが無い。
黒猫の旅の終着点はここになっちゃう。私はそれはイヤだ。この黒猫にはもっと色々なものを見て欲しいと思う。私の代わりにって思う。
気がついたら、私は黒猫を抱き上げていた。
「冷たい…」
雨で身体が濡れて冷たい。でも、体温は伝わってきている。この子はまだ生きている。
抱き上げて、黒猫を身体にくっつけていたから、服がびしょ濡れ。でも、気にしない。
お気に入りの服だけど、気にしない。
それよりも、この黒猫の存在が暖かく、嬉しかったから。
私は黒猫の身体を優しく抱えなおして、家に向かって歩いた。
もし出会わなかったら、私の人生はきっとヒドイものになっていただろう