カムパネルラの日記@
〜プロローグ〜


   ザーーーーーーーーーーーーー

 芽吹きの月16日
 今日も雨が降っている。朝からずっと降りっぱなし。
 いい加減やまないかなぁ……

「……っと。ん〜」
 日記にしては少し味気ない……
 でも、まだお昼だし、いいよね。書くことないし。
「ん!」
 私はそう納得して、ペンを置いた。
「ん〜〜っ」
 身体を伸ばして、時計を見ると、日記を書くために机に向かってもう30分も経っていた。
「うわぁ……」
 日付とこの短い日記を書くのに、どれくらい時間かけているんだろう……
 ん〜。ジョバンニの呆れた顔が目に浮かぶなぁ〜
 きっと「何でそんなに時間かけられるのさ?」とかって言われるかも。違うかな。「…バカじゃないの?」かも。あ、本当に言いそう……。
 …言われたら、飴玉ぶつけてやる。
「む?」
 気がついたら、棒付キャンディーをくわえていた。自分でも全然気がつかなかった。いつ食べ始めたんだろう
 私は昔から何かを口にくわえる癖があった。鉛筆でもお箸でも草でも枝でも何でもくわえちゃう。
 何でもって訳じゃないか。細長いものだね。
 さすがにくわえたまま街中を歩くのは少し恥ずかしい。だから、違和感のないようにこの飴をよく食べる。
 おかげでカバンの一部は完全にその飴玉しか入ってないの。
 飴と言えば、と私は窓の外を見た。
 相変わらずの土砂降りだ。この雨で私と相棒のジョバンニはこの町に足止めされている。
 雨の中街の外を出歩くのは危険だし、野宿なんかしたら大変だもん。
「もう……二週間経つのかぁ」
 それだけ雨が続いている。
 それも仕方がないと思う。今は“芽吹きの月”だから。
 この“芽吹きの月”は冬の厳しい寒さから暖かい春に変わる時の月で、雪が雨に変わる時期。その雨を栄養に草花が生き生きしてくるという由来があるの
 この月は普通の月と違って少し短め。そして、この月が終わると次は“生命の月”がくる。春の始まりの月でもあるの。
「…あと5日くらいかな?」
 “芽吹きの月”は残りそれくらい。もう少し続くかも?
 春が始まるのは嬉しいけど、こう足止めされるのは困る。
 私たちのAmericaはあくまで二人で旅を続けることだから(詳しくはSS AMERICAでっ!)
 ふと日記を開いてみる。
 Americaでの生活は……もう4ヶ月たつんだ
 そこから順々に日記をめくると、色々なことが書いてある。
「あ、こんなこともあったなぁ」
 今ではあまり覚えていないことも日記を読めば思い出せる。うん。便利だ日記帳。これを思いついた人は天才だ!
「……あ、はは…こんな事もあったっけ……」
 …あまり思い出したくないことも書いてあったりする。その日をちゃんと記録しないといけないから、嫌なことも書かなくちゃいけない。
 今開いている日はちょうど私にとって良くなさすぎる日だ。…うん。これを思いついた人は本当に偉いなぁ……
 でも、これはこれで楽しいな。ページが進むごとにその日をありありと思い出せる。
 一日一日やっていることは違うけど、一つだけ同じことがある。
 いつも傍にジョバンニがいること。
 これは全然変わらない。そして、これからも変わらない。
「……」
 そう思うと、つい笑みが出ちゃう。
 そして、日記はもう今日の部分に戻った。うーむ。早い……
 さっきと同じように時計を見ると、あれから……1時間
 結構有意義な時間だったかな。
 そういえば、ジョバンニ散歩に出て行ったきりまだ戻ってこないなぁ。
「そろそろ戻ってきてもいい頃なんだけど……」
 棒だけになった飴をくずかごに入れて新しいのを口に入れる。
 ふと思い出す。
 私はカバンから一冊の本を取り出した。
「…思えば、ジョバンニと会ったのもこんな日だったな」
 この少し古ぼけた本を見ながら、しみじみと言った。
 そう。これは私の最初の日記
 ジョバンニとの出会いもこれに書かれている。
 今まで見返すことはなかったけど、今日初めて読み返してみようと思う。
 表紙を開いたところで、さっきまで私が待っていた人が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりーってびしょ濡れだよ」
「そりゃ、雨の日に出歩いたんだもん。濡れるよ」
 ジョバンニは生意気そうに答えた。
 この喋る黒猫が私の相棒のジョバンニ。ちょっと生意気で寂しがり屋なところもある。
 私の大好きなパートナー
 そんなパートナーにバスタオルを持っていって拭いてあげる。
「もう。風邪引いちゃうよ?」
「んー。でも、部屋の中にずっといるのは退屈だし…」
「…まぁね」
 あるていど拭いてあとは自然乾燥。バスタオルは干して、新しいのをジョバンニにかぶせる。
「ところで、カムパネルラは何していたの? 昼寝?」
「違うよーん」
 ジョバンニに日記を見せる。
「今までの日記読んでいたの」
 正確に言うと、America発見から今日までの日記だけど
「へぇ〜」
 日記を見るジョバンニ。でも読めないらしく、視線がとまっている
 言葉は話せて、聞くことはできるけど、読むのはできないみたい
 正直それは少し嬉しい。
 だって、たまにジョバンニの軽い悪口が書いてあるから。それを見たらきっと頬っぺた引っ掻かれるだろうなぁ
 うん。良かった。ジョバンニが文字読めなくて
 ボーっとしているジョバンニに声をかける。
「こんな日だよね、私たちが出会ったの」
「うん。そうだね」
 こんな雨の日に、私たちは出会った。
 そして
「それから僕たちの旅が始まったんだよね」
「うん。そうだね」
 二人で外を見る。
 外は相変わらず雨が降っている。
 こんな雨の外の日に、私とジョバンニは出会ったんだ


To be continued...





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