「ったくさ、ちゃんと待っててよ」
カムパネルラと出会う前、僕は何度も月を見た
「どうしたの、ジョバンニ!?」
「少し落ち着いた?」
空の月と星と、街の明かりが作る地上の星が僕らを優しく包み込んだ
「ゴメンゴメン。ちょっと荷物置きに入ったらね」
と、カムパネルラは一瞬鋭い目をして言った。
「なーんか、悪口言われた気がしてね」
「………ごめんなさい」
怖かったので、素直に謝っておく。
「うむ、よろしい」
カムパネルラはニコニコ顔で、僕の頭を撫でた。
「でもゴメンね。タイミング悪かったね」
「ん、いいよ。カムパネルラがちゃんと街にいたんだから」
「? どゆこと?」
「ん。何でもない。とりあえず気にしてはないよ」
ま、いっかとカムパネルラは頷いた。
その後僕らは夕ご飯を食べることにした。
カムパネルラは鞄から沢山食べ物を出した。
ホテルでの食事はいつも食べず、いつも外で何か買ってくる。
以前その事について訊いたら、こう答えたんだよね
「だってね、ホテルのご飯って美味しくないんだよ。だから外で買うんだ。」
その時は、そうなのか、ととりあえず頷いておいた。
その後、カムパネルラは少し照れて、こう付け加えた
「それにさ、ホテルのご飯は私の分しか出ないんだよ? ジョバンニのはないんだもん。ご飯は一人で食べるより二人で食べた方が美味しいもん」
だから、少し余分にお金を払って僕らはホテルの部屋でいつもご飯を食べる。
レストランも入ったことなんて無い。
大抵パン屋さんとかそういったところで買う。
それで手頃なところで食べている。
食事の時間は結構楽しい。
この時に僕らはアメリカがどんなトコだろうか、と飽きもせず話したりする。
ずっとずっと話している。
他にも色々な話もするけど、この話題が一番多い。
何度も何度も同じ事を繰り返すけど、僕らはちっとも飽きない。
話すたびに夢は広がって、嬉しくなる。
カムパネルラも僕もずっと笑顔だ。
僕はカムパネルラが嬉しそうな顔が好きだ。一番好きだ。
逆に悲しんでいる顔は見たくない。
今までそういった顔は見たことないけど、今日は見そうな気がする。
だって、今日僕はアメリカの情報を得られなかったんだ。
これだけ大きい街で色々な人間や動物が行き来している街なのに、動物達はちっとも知らなかった。
年老いた猫から、昔探して彷徨ったけど見つからなかった、という話を聞いた。
彼は結局この街に居座る事にしたらしい。
……多分人間の方も知らないような気がする。
ふと、顔を上げると、カムパネルラがじっと僕を見ていた。
「どしたの?」
「ん? 何かジョバンニ元気ないなーと思って」
その言葉に僕は驚いた。そんな素振りは見せていないのに。
「情報無かったの?」
なんとまあ、的を射た質問。僕は思わず頷いてしまった。
「そっか。でも、落ち込まないの、ジョバンニ」
「?」
「私もね今日は見つけられなかったけど、見つけられなかったんならまた明日探せば良いじゃん」
「………」
「1日でこれだけ大きい街で情報得るなんて難しいよ。また明日頑張ろうよ!」
カムパネルラの言葉に僕は安心した。
悲しい顔を見ることにはならないで済んだ。
でも、なんて前向きな考えなんだろう、と僕は感心した。
何度も何度も同じ事を繰り返して結果が出ないのに、落ち込まず、さらに次を見ている。
「そうだね」
僕はカムパネルラのこういうところも好きだ。
とても前向きで、諦めるという言葉を知らない、真っ直ぐで純粋な彼女がとても大好きだ。
僕は改めてそう思った。
「あ、ジョバンニー」
「なに?」
気がついたら、カムパネルラは窓から顔を出して外を見ていた。
「今日満月だよー。きれいだねー」
窓の桟に乗って見てみる。
カムパネルラの言うとおり、満月でとてもキレイだ。
「でも、あの時計台が邪魔でよく見えないね」
「よし、ジョバンニ! 良く見えるトコに行こう!」
「へ?」
カムパネルラは、僕を抱えて外に出た。
「ほら、ここだったら、良く見える!」
「そだねー、でも良いの?」
僕らは今ホテルの屋根の上でお月見している。
あの後、カムパネルラは上の階に上って、ソコの窓から外に出て屋根伝いにホテルのてっぺんに出てきたのだ。
「いーのいーの。ばれなければいーのっ」
「……ま、たまにはいっか」
カムパネルラのアバウトさが僕に伝染した。
でも、今日くらいは良いよね?
僕らはそのままお月見を楽しんだ。
その時は月を見ても楽しくはなかった。
でも今は楽しい。
なんでかな。カムパネルラとだからかな
そういえば、カムパネルラと一緒にいる時はいつも楽しいな
たまに僕を困らせるけど、とても楽しい。
アメリカを探す旅はとても楽しいな
情報が無いときは落ち込みでも、カムパネルラといるからか、そんなに落ち込まないや
ここにきて分かったよ。
正直アメリカが見つからない方がいい
アメリカに辿り着いたら、僕らは一緒にいられるの?
別々になっちゃうんじゃないのかな?
そんなのイヤだよ
いつまでもカムパネルラといたいよ
一緒に過ごしたいよ
「え……」
気がついたら、僕は泣いていたみたい。
心配そうにカムパネルラが僕を見ていた。
「カムパネルラ〜」
僕は泣いた。これでもかというくらい泣いた。
「ぼく、カムパネルラとずっと一緒に、いたいよぉ〜」
「……」
「アメリカ見つけて、それで離れるなんてイヤだよ! アメリカになんか辿り着かなくてもイイよ! いつまでも、カムパネルラと一緒にいたいよ!」
僕は泣きながら、カムパネルラに思いをぶつけた。
カムパネルラは静かに僕を見守っていてくれた
「うん……」
思い切り泣いて、僕は落ち着いた。でも、気持ちは変わらない
「あのね、ジョバンニ。私もいつまでもジョバンニと一緒にいたいよ。アメリカなんて見つからなくても良いや、って思うもん」
今度は僕が黙って聞く番だ。
「でもね、私たちアメリカ見つけちゃったんだ」
「???」
僕はカムパネルラの言ういう意味が分からなかった
カムパネルラは優しく微笑んで、教えてくれた
「アメリカっていうのはね、その人が本当に楽しいと思える生活送ること。つまり、そんな街は無いの」
「………」
「ほら、あのオジサン。あの人はあの愛馬と一緒に行商する事がアメリカなんだよ」
そうなんだ……
「だから、私のアメリカはジョバンニとずっと一緒にいること。一緒に旅することだと思うんだっ」
カムパネルラは太陽みたいな笑顔をした。
僕はそんな笑顔が好きなんだ。
そして、僕のアメリカは
「じゃあ、カムパネルラとずっと一緒にいること。それが僕のアメリカなんだね!」
カムパネルラは頷いて僕を強く抱きしめてくれた。
結果的に僕達はアメリカを見つけた
旅の終着点に辿り着いた。
僕らの旅は終わった。
ちょっとむなしいけど、どうでもいいや。
いつまでもカムパネルラといられるんだから
うん、僕達のアメリカ 何だか暖かいね
ジョバンニ、アメリカ探しは終わったけど、これからもよろしくね
うん! もちろんだよ! いつまでも一緒だよね?
もちろん、いつまでも一緒だよ
…………………
……………
………
二人はいつまでも一緒
それが二人のアメリカ
二人のアメリカはとても大きくとても大切なモノ
二人のアメリカは始まったばかり
二人の物語はここから紡がれていく
The end