時は無限ではあるが無限ではない。
「………」
街の中は思っていたよりも複雑で、僕は道に迷った。
宇宙を中心に考えれば時は無限だが、人一人に当てれば、その時間は僅かちっぽけなものである。
彼らも今そのちっぽけな時間を使って探し物を捜し求めている。
限られた時間は、宇宙ではほんの僅か。
ヒトの感覚ではまだ十分にある。
時間は有益に使えば、あっという間だ。
彼らは今までその時間はあっという間に感じられた。
そして、今。彼らはそのあっという間の時間を別の形で刻んでいくことになる
そこに辿り着くのには、あと少し……
「………」
僕らは遠くから街を見ていたから、さほど驚きはしなかった。
でも、近くで見ると、それは違うと思い知らされた。
今まで立ち寄った街や村、大きさは様々だったけど、この街は特に大きかった。
ソレに比例して、ヒトの数も多かった。
街の入口にぼーっと突っ立っているだけで、様々な人が目の前を行き来している。
小さな露店も幾つか建っている。
そして、何より、大きな時計台にぼくらの目は釘付けとなっている。
街の外の丘の上からでも確認できるほどの大きさで、街の入口からその時計台を見ると、とても大きい事が分かる。
「凄い……」
カムパネルラの口からやっと言葉が出てきた。
僕も意見を言いたいけども、僕は一見只の黒猫。喋って混乱を招かないように只の黒猫を演じなければいけないから黙ったままだ
「やっぱり驚いたかい?」
入口の脇に立っている門番さんが声をかけてきた。
「え、あ、はい!」
急に声を掛けられて驚くカムパネルラ。
「私、今まで色々な街を回ってきたけれど、これほど大きな町にはまだ」
「なるほど」
門番さんは頷いた。
「時計台も幾つかは見ましたけど、これほど大きなものは見たこと無いです」
と、見上げる。門番さんも一緒に見上げる。
「うん。多分ここより大きな時計台は無いよ」
門番さんが意味深な言葉を吐く。
「この街はかつて城砦都市だったんだ」
「え」
「この街は海に面しているし、ほら、あっちの山脈があるでしょ」
指先を北東を指した。その先には白い険しい山がそびえている。
「よくあの山を越えて、軍隊がこの街に迫ってきたんだ。あと、海の向こうからもね」
「………」
「それで、ここは前線基地みたいな役割を果たす事になったんだ。ここを落とされると、あとは首都まで一直線
だから、ここは特に険固に作られたんだ。この城壁はその名残」
「じゃあ、時計台は……」
「本来は見張り塔だったんだよ。あの上からなら、海も山も遠くまで見渡せる。陸だったら、敵の陣形も分かるね」
「……へぇ」
「そして、50年前にやっと停戦。お互い消耗は激しかったし、」
門番さんはニッと笑って続けた。
「何で戦争になったか忘れちゃったんだよね」
「あははっ! 何ですか、ソレ!!」
「(カムパネルラみたいだなぁ)……フギャ!」
そっと呟いたのが聞こえたらしく、ギュッとつねられた。
「それで、この見張り台をいっそ時計台に変えて、あの時の辛さを忘れないように、という気持ちで建て変えたらしいんだ」
「すごいですねっ」
「ん? そうだね」
門番さんは嬉しそうだ。
「今の若い人はこういった話に無関心だからね。君みたいな子が聞いてくれると嬉しいよ」
「ありがとうございます」
「ところで、この街には何しに?」
門番さんはやっと本題を出した。
「えーっと、探し物を……」
「探し物?」
「はい」
「ふむ……観光という形でいいか」
と、門番さんは懐から何か用紙を取り出し、何かを書いてからカムパネルラに渡した。
「はい。これに名前書いて」
ソレを受け取ると、さらさら〜っと名前を書いて渡した。
「カムパネルラさんね。はい、コレ。入街証のバッチ。分かりやすいところにつけてね」
「はい、分かりました」
「探し物、見つかるといいね」
「ありがとうございます」
僕らは(カムパネルラだけだけど)門番さんにお礼を言って、街に入って行った。
「(親切な人だったね)」
「そだね。一番良いホテル教えてくれたし」
本当に大きな街だ。
ホテルだけでも10を越える。
「(ねぇ、カムパネルラ)」
「ん、何ー?」
……怪しまれないように小声でそっと話しているのに、こうも普通に返答したら意味ないじゃん…
僕はそんなことを考えながら、どうでもよくなり、普通の声で言った。
「ここで一旦別れて情報収集しない? カムパネルラはついでにホテルも手配してさ」
「んー。そうだね。でも、ジョバンニ、ホテルの場所分かる?」
………言葉は話せる僕でも文字はあんま読めない。
しばらく黙っていると、僕らは狭い通りを抜けて広い広場に出た。
そこは、多くの人たちが行き交っている。ココはこの街の中心で、その広場の真ん中に大きな時計台が立っている。
時計台のふもとに小さな噴水(それなりにあるけれど、時計台を見ると、本当に小さくしか見えない)があった。
「じゃあさ」
カムパネルラは時計を取り出して(時計台が高すぎて、時間が良く見えない。結構不便だね)、時間を確認して
「7時くらいにあそこの噴水の所に待ち合わせない?」
「ふむ。それはいいかも」
他に噴水は見当たらないし、一番良い目印だろうな。
「じゃあ、そうしよっか」
「うん。それじゃ、行ってくるね」
「うん! それじゃ、7時にねー」
カムパネルラの声を聞きながら、僕は走って、他の動物達がいそうな所に向かった。
こういう情報収集の時、カムパネルラは人に、僕は動物に聞きまわる。
今までは、ほとんど知らなかったり、知っていても名前だけだという頼りないものだったけど、何故か僕はこの街に"America"を知っている人(動物)がいるような気がした
ついさっき、鐘が6回鳴ったのを聞いた。
このままだと、遅刻しそうだ。
暗い道を僕はどんどん走る。
たまに曲がったりして、走るけど、ちっとも広場に辿り着かない。
(完璧に道に迷ったや)
今のは……6時半の鐘!
うーん、ヤバイ。
ますます焦ってくる。
とりあえず、落ち着いて。何か良い案を考えよう。
……………
あ
そうだ!
僕は一つの事をひらめいた。
広場を目指すならば、時計台を目印にして走れば良い。でも、僕は小さいから他の建物が邪魔で時計台が見えない。
だったら、時計台が見える道、すなわち家の屋根の上を渡ればいいことに気がついたのだ。
案の定屋根の上に登ると、時計台が見えた。
全く逆方向に走っていたみたい。
僕は一気に駆け出して、屋根を跳んだ。
徐々に近づいてくる大きな時計台。
あと、あと少し!
「な、なんでこの町はこんなに広いんだろう」
と、僕はぼやいた。
「なんで、カムパネルラはいないのさ!」
と僕は叫んだ。
僕の声は結構響いたらしく、周りの人間は辺りを軽く見回して声の主を探し出した。ま、フツー
猫が言葉を発する訳なんて無いから、僕には視線向けられなかったけどね。
はぁ……
「本当どこ行ったんだかなー。ちゃんと待ってるよう約束したのに」
ちょっと愚痴をこぼしてみる。
「いつもそうだ。約束忘れたりして。毎回毎回どっかふらふら〜とどっか行って
それで探し回るのはいつも僕なんだしああそう言えばこの間の食い逃げの時もそうだしいつもいつも
お金かなり節約しているんだから結構あるんだから買えば良いじゃんかだから毎回町を逃げるような
感じで出発するんだからたまにろくに情報も得られずにそれで荒野で死に掛けたり……」
ちょっとした恨みが次々と出てくる
「ったく、ほんと頭のネジが3本くらい抜けて学習能力は無いし………ふぎゃっ!」
と頭に何かが直撃した。
見てみると、飴玉。
どうやら飴玉が飛んできてそれが直撃したらしい。
「…………」
恐る恐る辺りを見回してみる。
目標の人間は見当たらない。
そして、頭が痛むところから、飴が飛んできた方向を割り出してそっちの方向を見てみる
………いない
ん?
今の視線の直線状に遠いけど建物がある。そして、その建物の2階の窓が開いている。
そこに誰か………見覚えのある顔があり、コッチに向かって手を振っている
………いた。
何気にちょっと怒ってるぽい?
……何気に地獄耳だったんだよね、カムパネルラって……
忘れてた。
また飴が飛んできた。今度は予測していたから、余裕で避ける。
避けてから、僕は走り出して、カムパネルラのいる建物(宿屋)へと走った。