AmericaB


 朝が来れば、昼も来る。そして、夜も来る。
 今何もない荒野に夜が舞い降りて、灯りとなるモノがないので、荒野は暗闇に満ちている。
 その荒野を照らすが如く、黒色の空には一つの月とたくさんの星が輝いていた。
 そして、大地にも一つ、獣を恐れさせ、温もりを与える小さな光が輝いている。

「どうもすみません。食料をただで分けてくれるだけじゃなく、ご飯までご馳走になっちゃって」
 焚き火を囲んでカムパネルラ、ジョバンニ、そして、行商人は豪華とは言えないが、暖かい夕食を食べようとしていた。
「ははは、気にするな! 困った時はお互いさまだって言うだろう?」
 行商人は豪快に笑って、食事中にもかかわらず煙草に火をつけた。
 ここには、マナーと言う細かいルールは無い。最低限守るべきマナー以外は捨て去られたトコロだ。だから、食事中に煙草を吸うとか、 そんな細かいルールは無視だ。
「ああ!」
 カムパネルラはポンと手を叩き
「溺れる者は藁をも掴む、とも言いますね!」
 ………そして、オオボケをかました。
「? はははははははっはは!! お譲ちゃん面白いなぁーーー!!」
 行商人爆笑
「? あははははははははっ!!」
 つられて笑うカムパネルラ
(全然言わないよ………)
 呆れながら、心の内で泣いて、心の中でツッコミを入れるジョバンニ
 初対面だと言うのに、空気はとても軽かった。この空気を容易に作り出せるというのも「旅人」だからであろう。
「……それに、こんな荒野を女の子と猫が歩いてるんだもんな。ほっとける訳がねぇよ! ……謝罪の意味もあるしな……」
 ひとしきり笑ってから、行商人は付け加えた。
 ジョバンニはあの時の事を思い出した。

 荒野の果てからゆっくりとマイペースな動きで確実に馬車は僕たちの方へ向かってきた。
 カムパネルラは馬車を見つけた岩の上で両手を使って大きく振っている。
 向こうも僕たちの存在(主にカムパネルラ)に気づいたのか、(遠目じゃ良く分からないけど)馬車の速度が心なしかゆっくりとなった。
 僕達の目の前で馬車が止まると、御者台から1人の中年男性(多分40代後半〜50代前半)が降りてきて、
「っらっしゃい! 良いモンあるよっ!!」
 と、お得意の営業スマイルとつい買いたくなるような声を出した
 ……けど、まずカムパネルラを見てから僕を見て、そして、カムパネルラをもう一度見ると、徐々に驚きの顔に変わっていった
「………………子供?」
「っ! 私は…!!」
「…………家出か、譲ちゃん?」
「違…!」
「分かった分かった。家まで送ってやるから、住所教えな」
「……………」
 あ。怒りのオーラが出てきてる……
 あ〜あ、怒らせちゃった。僕知らな……って、アレ?
 ねぇ。何で僕を掴むの? しかも首根っこ。いや、この際関係ないか。尻尾よりかはマシだし……
 って違うだろ、僕!
 って、ちょ、ちょ、ちょ……!!
 次の瞬間、僕の身体に遠心力がかかり、僕の首根っこを掴んでいたカムパネルラの手が離れ、僕はそのまま勢いを持って宙を飛んだ。
 そして、驚愕の表情を浮かべたおじさんの顔に

ズベシッ!!

 …とまあ、こんな気持ち良い衝撃音を立てて激突した。
 あまりの衝撃におじさんの身体は後ろに倒れ始め、顔に張り付いている僕はおじさん以上の衝撃で目を回しながら、おじさんの顔にへばりついたままだった。
 

ズズンッ……

 おじさんの身体は大地の上で仰向けで寝っ転がる状態になり、僕はその鈍い衝撃でおじさんの顔から離れ、大地の上に転がった。
 ………嗚呼、カムパネルラの怒った顔が見えるよ……
 痛いよ……あ、何か言ってる……
「私は! れっきとした″旅人″ですっ!」
「……へ?」
 顔をおさえながら、立ち上がるおじさん。
「それと! 私は16歳です!!!」
「……………………ゑ」
 カムパネルラが16というのを知ったおじさんは、今まで以上の驚きの顔を見せてくれた。無理もないと思う。だって、カムパネルラはどう見ても12歳くらいに見えるもん。身長、体型、精神的に………
「ジョバンニ、何か言った?」
「ん、別に……」
 心でも読んだのかなぁ、とちょっと思う。
 爽やかな笑顔が恐かったなぁ………

回想終了

 オジサンは暗い顔を消し、再び笑顔を表に出した。
「で、二人(?)は何で旅しているんだ?」
 オジサンの問いかけにカムパネルラは顔を上げた。
 その時に見えた口の周りには夕食のシチューがベタベタとついている。
 その様子を見て、僕は当然こう思った。
(本当に子供だよなぁ……。本当に16歳かなぁ)
 突然尻尾に痛みを感じた。
(!!!)
 見れば、カムパネルラが僕の尻尾を握っている。「笑顔」で。
 まっすぐオジサンの方を見ている。
 ………何で僕の考えを読めるんだろうなぁ。実を言うと、宇宙人なんじゃ……
 再び、尻尾に痛みが走った。
 ………ナレーションでもダメなのか(笑
「で、何でしたっけ?」
 カムパネルラがオジサンに聞く。
 話をあんま聞いてなかったみたいだ。だから、子供……
 ………痛い
 まただ。また尻尾を。
 ううぅ……。本来なら立場的には逆なのになぁ。
 はぁ……
「ん、ああ。だから、何で旅しているかって」
 カムパネルラが口の周りを拭いてから、答えた。
「ええ。私達は“アメリカ”を探しているんです」
「!!」
 一瞬オジサンの顔が驚きの顔に変わった。そして、微妙に懐かしむように呟いた。
「……そうか。“アメリカ”か……」
「?」
 カムパネルラは言葉の真意が分からないみたいだ。
 僕は分かったけどね。あの言葉には、絶対何かがあるに違いない。だから、僕は思い切ってオジサンに聞いてみる。
「オジサン……何か知ってるね?」
「!?」
 オジサンはカムパネルラが16歳だと知った時以上に驚いた顔をした。
 やっぱり何か知っているんだな。
 ……だけど、僕の予想に反して、オジサンの反応は違った。
「ね、ね、ねねねねねねね……」
「ねねねね?」
 カムパネルラが首をかしげる。
「ね、猫が喋ったっ!?」
 ………あーーーーー。その事か。
「いや、そんなんどーでもいいから」
「どっ!?」
「で、何知ってるの?」
 とりあえず、オジサンの言葉を遮って、聞く。
 でも、タダでは話してくれなさそうな雰囲気。だって、変な目で僕を見てるし。まぁ、喋る猫なんてそうそういないからね。仕方ないか。
 とりあえず、場の雰囲気を読んだカムパネルラはオジサンに説明した。
「ジョバンニは喋る事ができる猫なんですよー」
 ………あまり(全然)説明になってもいない。普通の人ならそれじゃあ納得しないけど
「へ、へぇ……」
 と、オジサンは頷いた。納得はしていないみたいだけど。
 カムパネルラの無邪気な笑顔で聞く気がそがれたみたいだ。
「それで、“アメリカ”について何か知っているんですか?」
 ここぞとばかり、ずずいとオジサンに詰め寄った。
「う……」
 言葉に詰まる。
 無邪気な顔がカムパネルラから消え去り、真剣な顔になった。
 その瞳には、もはやオジサンしか映っていない。
 真剣そのものだ。珍しく。
 そんなカムパネルラに見つめられ、オジサンは口を開いた。
「……知っているさ」
 その言葉に僕らに緊張感が走る。
 そして、次の言葉は僕らに“アメリカ”が存在する事を確実に教えてくれた。
「何せ、俺は………“アメリカ”から来たんだ。そして、今もソコで暮らしている…」

 時が止まった
 今の状況を示すには十分すぎる言葉だ。
 僕らから音が全て消え去った。
 僕らから色が全て消え去った。
 僕らの感覚が全て消え去った。
 そして
 そして、ゆっくりと僕らに音と色が戻ってきた。
 身体にも感覚が戻ってきた。
 完全に時が動き出した。
 そんな感じだ。
 そして、時が動き出すと同時にカムパネルラがオジサンに言った。
「どこにあるんですか!」
「………」
「どこに“アメリカ”があるんですか! 教えて下さい!!」
 ここまで緊迫な状態のカムパネルラを見るのはとても久しぶりだ。
 いつも飄々としているから、カムパネルラの感情はほとんどと言っていいくらい分からない。 でも、今はその感情をむき出しにしている。答えを持つ人が目の前にいるのだから仕方ないことだ。
 僕もとても気になる。
 旅の終着点がどこにあるのかやっと分かるんだもの。
 ………でも
 でも、何故だろう。少し淋しい感じがするのは………
「……場所は」
 何故淋しいのか考えていると、オジサンが口を開いた。
 やっと聞ける。
 でも、聞きたくない感じもする。
 やっぱり聞きたい。だけど、聞きたくない。
 そんな感情が僕の中で渦巻き始めた。

 緊張が走る。
 時が止まる感じがまたし始める。
 そして、オジサンは一言こう言った。

「言えない」

 ………再び時が止まった。
 いや、「時が凍った」って言った方が正しいかも。
 僕の視界がブラックアウトした。きっとカムパネルラもブラックアウトしただろう。
 足場がぐらつく。
 まるで、足場が急激に失われた。
 まさにそれだ。
 何も考えられない。
 そして、何も分からない。
 何故か分からない。

何故オジサンハ教エテクレナカッタノ?

ドウシテ?
 ドウシテ?
  ワカラナイ……

 分からないまま二人はそのまま呆けていた。
 1人行商人は、言った事を後悔した。が、それは正しい事なのだと無理やりそう思いこんだ。
 数時間後、二人は気づかないまま横になり、寝息を立て始めた。
 夜の闇が彼らを優しく包み込んだ。
 月と星が彼らを優しく撫でた。
 二人はよるそのものに祝福を受けて、眠り続けた………
 行商人は、あえて二人をそのままにした。
 今手を出すには早すぎる。
 旅は終わりに近づいている。
 今ココでこれ以上手助けをすれば、二人のためにならない。
 そう思い、あえて布団をかけようとは思わなかった。
 秋になりつつある荒野の夜
 日中はまだ暑いが、夜は急激に冷える。
 今の時期に荒野の真ん中で眠るのは危険だ。死ぬ場合もある。
 しかし、ココで道半ば倒れるのならば、永遠に“アメリカ”は見つけられない。
 だから、彼は二人をこのままにしたのだ。
 今彼らは“アメリカ”の近くにまでいるのだから………




To be continued...


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