日が傾き始め、辺りが夕闇に包まれ始める。
荒野を走る道の真ん中で二人は何かを言い合っていた。
「何で食糧を買い忘れるんだよ!!」
「ついうっかりして〜……」
「うっかりしてじゃないよっ!!」
ジョバンニの怒声に驚き、カムパネルラは首をすくめた。
彼らが言い争っている理由(言い争いというか、ジョバンニがカムパネルラに対して怒っている理由)、
それは、カムパネルラが前に立ち寄った街で食糧を買い忘れた事だ。
今は秋の半ば、冬が近いため、夜は寒くなる。少しでも何か食べておかなくては辛いものである。オマケに……
「次の街までどの位かかるかわからないんだよ!」
という理由もあるのである。さらに……
「今から街に戻っても、もう店閉まってるだろうし……どうすんのさっ!!」
こんな理由もあるのであった。
「つ、次こそは必ず買うか……」
「そのセリフ何回目だよっ!!!」
「えーっと………」
「数えるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「いったーーーーーーーーっ!!!」
ジョバンニの叫びが、そして、一呼吸おいてカムパネルラの悲鳴が荒野に響いた。
悲鳴は徐々に消えていき、遂には悲鳴が消えて、荒野に再び静けさが戻った。
そして、カムパネルラの頬には、見事な赤い「川」の字が書かれていた。
「うぅ〜〜……」
うめき声を上げるカムパネルラを無視して、ジョバンニはこれからどうするか考えた。
決死の覚悟で進むか、一旦街に戻って、街の中で夜を過ごし、翌朝に食糧を買い込んで再出発するか……
「うぅ〜〜〜〜!!」
恨めしそうな目で見てくるカムパネルラを無視して、ジョバンニは考え続けた。
とことん無視するジョバンニにカムパネルラはそっぽを向き、「聞いてきたから答えようとしたのに……」と文句をぶつぶつ言った。
そして、側にあった岩の上登って辺りを見回す。
左を見れば荒野が広がり、右を見れば、同じような荒野が広がっている。
正面を見据えれば、まっすぐな道が伸び、その先に街があるはずだ。後ろを見れば、同じような景色が見えるはずだ。
四方八方地平線。全く変化のないところだ。
(……つまらないなぁ)
………半ば生命の危機に立つ人間のセリフでないのは確かである。これは余裕があるのか、能天気なのか……
まあ、後者であるのは90%確実である。
そんな変化のない景色をノンビリ眺めていたカムパネルラの目に変化のある景色が飛びこんで来た。
(あれは………)
「ジョバンニ! ジョバンニ!!」
「ん〜〜〜?」
考えがまとまりつつあったジョバンニはめんどくさそうに振り返った。
「何?」
「アレ!」
カムパネルラが指差す方向を見る。
これから自分たちが進む予定の道。その先に、陸と空の狭間に、地平線上に土煙が舞い上がっていた。
砂嵐にしては小さい。小さすぎる。
何だろうと思い、よぉく目を凝らす。よく見えない。
次第に土煙が近づいてくる。
土煙の中に何かがいるのが見える。一頭の馬だ。その後ろには……車が見える
(あれは多分……)
「行商人だよねっ!」
カムパネルラが嬉しそうに言う。
行商人は、旅をする店だ。食べ物から日用品、ありとあらゆる物を取り扱っている。
つまり、ジョバンニの考えた考えの他に、もう一つ選択肢が生じた。
「行商人から食糧を買う」
そんな選択肢が生じたのである。
隣で喜んでいるカムパネルラを見て、何となく腹が立ったのでこう言ってやった
「やれやれ。街に戻らなくて済むや」
「……ひょっとして、まだ怒ってる?」
「当然」
「あうっ……」
二人がそんなやり取りをしている間にも、行商人の場所が迫ってきていた。